関西と広島や九州を結ぶ道路と言えば、誰しも山陽自動車道を思い浮かべるだろう。しかし、山陽自動車道だけではなく、もう一本、並行して走る高速道路、中国自動車道があるのをご存じだろうか。中国道を上手く使えば、お盆・GWなどの大型連休に発生する山陽道の渋滞を避けて移動ができるということを、皆さんに知って頂きたく、こんな記事を書いてしまった。
なお、前編・後編としているが、実際に役に立つ知識は前編ですべて賄ってしまおうと考えている。後編は実走レポで、中国道のサービスエリアや混雑状況などの様子をレポートしようと思う。
走行レポートについては以下の記事を参照していただきたい。
なお、2023年GWにおける記事はこちら。
目次
カギを握るのは中国地方を縦断する2本の路線
関西と広島および九州の間は、山陽自動車道と中国自動車道の大きく分けて2本の高速道路で結ばれている。この2本の高速道路は、いずれも兵庫県、岡山県、広島県を通過する点は変わりなく、超広域移動という観点で見ればほぼ「並行している」とみても良い道路である。
お盆やGWの帰省ラッシュ地獄を乗り切るには、これらの使い分けなくして成り立たないため、まずはこれらの道路の概要について説明する。
ちなみに、あえて「年末年始」を外したのには訳があるため、その点についてもあわせて記事中で説明したい。
(上図)山陽自動車道(南側の線)と中国自動車道(北側の線)が並行する区間のルート。この縮尺ではわかりにくいが、北側の線のほうが曲がりくねっていて距離が長い。
山陽自動車道は、兵庫県の神戸ジャンクション(JCT)から、山口県の山口JCTまでを結ぶ高速道路であり、神戸から岡山、広島を通り山口へ至る道路である。
全長は419.2キロであり、起点の神戸JCTでは新名神高速道路と直線的に接続している。このため、関西以東から中国・九州地方へのメインルートとして機能している。
沿岸部の平地に沿って走ることが多いため、比較的アップダウンは少なく、直線的な道路が多く走りやすいのが特徴である。
また、滅多に渋滞することはないが、長期連休の時期になると大渋滞を引き起こすことで知られている。高速道路ナンバリングでは、E2が付与されている。
中国自動車道は、大阪府の吹田JCTから、山口県の下関インターチェンジ(IC)を結ぶ高速道路である。
全長は540.1キロ(ただし、山陽道と並行する区間に限れば443キロ)であり、高速道路の一路線の延長としては、東北道に次ぐ第2位である。
実は、山陽道と中国道のどちらが先に完成したかと言えば、中国道の方が先に完成している。これは当時、中国地方の国土軸は1本にする計画だったため、山陽地方からも山陰地方からも等距離でアクセスするため、中国山地に中国道を建設したからと言われている。
山陽道と比較して山間部を通り、完成した時期が比較的早いため、当時の技術ではトンネルや橋梁などを造れなかった箇所については、山を迂回したり谷筋に沿って造られている。このためカーブ、アップダウンともに非常に多い。
その一方で交通量は少なく、長期連休でも大渋滞を引き起こすことはまずない。
高速道路ナンバリングでは、E2Aが付与されており、山陽道を補助する役割や、米子道や鳥取道などとあわせて、関西~山陰のメインルートとして活用されている。
山陽道の大渋滞を避けるためには中国道を使う
今、この記事を書いているのは2019年8月14日なのだが、山陽道が非常に混雑している。17時50分現在、西から順に10キロ以上の大物だけでも、玖珂PA→大野IC間で20キロ、笠岡IC→倉敷IC間で23キロ、倉敷IC→山陽IC間で20キロ、倉敷IC→山陽IC間で13キロとなっており、数キロ程度の小物も数か所に点在している。
当然、走破する距離も長いので単純計算するわけにもいかないが、全長400キロそこらの路線で、実に80キロ以上が渋滞区間なのだ。
仮にこの渋滞にすべて捕まったとしたら、渋滞区間を(甘めに見積もって)時速20キロで走ることになると仮定しても、それだけで4時間を超える時間がかかることになる。
山陽自動車道は時速100キロで走れる区間と、80キロで走れる区間が混在しているが、仮に全て80キロの区間だったとしても、渋滞していなければ1時間で通過できる距離を、4時間かけて進むことになる。
一方中国道も、さすがにお盆のUターンのピークという事もあって渋滞ナシ!というわけにはいかないが、17時50分現在で佐用IC→揖保川PAで7キロ、山崎IC付近で5キロ、吉川JCT付近で1キロとなっている。山陽道の渋滞の4分の1以下である。
このため、帰省ラッシュやUターンラッシュのピーク時には、中国道を使うことで、渋滞を大幅に回避することが可能となるのだ。
18時50分現在では、大渋滞を懸念して山陽道を迂回した車の影響か、吉川ICを頭に12キロ渋滞している。それでも合計80キロの渋滞と比べれば軽いものだろう。
中国道が役に立つルート、立たないルート
空いている中国道ではあるが、発着地点がどこかによって、渋滞回避ルートとして使える場合とそうでない場合がある。結論から先に言えば、関西から広島以西へ行く場合、およびその逆パターンであれば、中国道は十分に迂回ルートとして役に立つ。
関西以東~九州を相互を移動するのであれば、ほぼ間違いなく役に立つと言える。山陽道が大渋滞しているときにも中国道の渋滞はほとんど無いため、距離が25kmほど長くなったところでたいした影響はない。
10キロ以上の渋滞が想定される場合は、中国道へ入ってしまえば問題ないだろう。
関西以東~広島を相互を移動するのであれば、渋滞の長さにもよるが役に立つと言える。ただし、広島ICを目的地とした場合、中国道を経由した場合の距離は山陽道経由と比べ、およそ50km長くなる。
目的地にもよるが、15キロ程度の渋滞であれば 、山陽道の方が早く到着できるはずだ。
山陽道が大渋滞(20キロ以上)であれば、中国道経由の方が早く到着できる可能性は高いだろう。
関西以東~岡山を相互を移動するのであれば、ほとんどの場合は山陽道経由の方が良いだろう。
中国道経由の場合、山陽道経由と比較して距離が80km程度長くなることから、30キロ以上の渋滞でもない限り、山陽道経由が早くなる。
中国道のネガティブな話
このように、中国道は、山陽道と並行していながら、山陽道のように大渋滞を引き起こすことは稀である。
裏を返せば、山陽道と比べて利用が少ないということであり、利用が少ない理由は、「使いにくい」要素が多く含まれるからである。渋滞回避に中国道を使うのはよいが、人によっては「こんなはずでは…」と思うこともあるかもしれない。
ここでは、中国道がなぜ使われないのか、というネガティブな話をしようと思う。ここを読んでみて「これぐらいのデメリットならたいしたことない」と思えば、ぜひ渋滞回避に中国道を活用してみてほしい。
中国道は、単純に距離が長いことがネガティブ要素の一つである。2本の道路の紹介でも書いたが、2路線の距離を、神戸JCT~山口JCT間で比較すると以下の通りだ。
山陽自動車道:419.2km
中国自動車道:443.0km
この通り、中国道の方がおよそ24キロ程度距離が長くなるのだ。時速80キロで走行したとすれば、およそ18分余計にかかることになる。ちなみに、距離が変わっても、最短経路と比較して2倍未満の距離であれば、通行料金は最短経路を通ったものとして計算される。
参考 入口ICから出口ICまで、複数の経路がある場合の通行料金の計算方法について教えてください中日本高速道路
中国道は、険しい中国山地を縫うように路線が伸びており、山陽道と比較してアップダウンや急カーブが非常に多いのが特徴である。
中でも急カーブに至っては、高速道路で「超」がつく急カーブといえる半径300m程度のカーブが大量に存在し、それを凌ぐ半径250mというカーブもあるから驚きである。
半径300mのカーブと言われるとピンと来ないが、有名なところでは中央自動車道下りの阿智パーキングエリアを少し過ぎたあたりに「魔のカーブ」と呼ばれる、半径300mのカーブが存在する。
このカーブにおいて、15年近く前になるが車20台以上が絡む多重事故が発生し、何名かの方が犠牲となっている。半径300mのカーブというのは、それだけ危険な急カーブだといえるだろう。
また、カーブが多い山間部ということは、アップダウン(特に下り)と、急カーブが組み合わせで来るという事だ。下り坂の急カーブというのは、非常に事故が起きやすく、先ほどの阿智付近の魔のカーブも下り坂と急カーブという要素が重なっているために見通しが悪く事故が起きやすく、それ故に魔のカーブと呼ばれているのだ。
高速道路の急カーブの話については、以下のブログが詳しいので、興味があれば参考にしていただくと良いかもしれない。
参考 往年の名神「今須カーブ」と各地の急カーブを比較してみるブロ玉(Blog Saitama)
各地の高速道路は、2005年までは「日本道路公団」とよばれる組織が管理しており、その後、東日本・中日本・西日本の3社に分割・民営化された。
民営化された後は、それまでの「休憩施設」という型にはまったような施設から脱して、エリアごとに特徴を強めた施設が次々と誕生している。新東名高速や新名神高速の巨大施設などが、まさにその典型だろう。
一方で中国道のサービスエリアは、昔ながらの「休憩施設」の面影を色濃く残している。というか、ほぼ昭和の開業時そのものだろう。
さすがに、サービスエリアを中心にトイレは新しくなっている箇所が多いものの、それでも建物は昭和そのものである。サービスエリアに多くを求める人は、中国道を利用すると悲しい思いをすることになるだろう。このあたりの施設の話は、後編で詳しく書きたいと思う。
最初に「年末年始」時期は、中国道を渋滞回避ルートから除外したことを覚えているだろうか。その理由がこれである。
中国道は、険しい中国山地を通過するため、冬季は雪による規制が敷かれていることが多く、時には通行止めになるほどの雪が降る。このため、タイヤチェーンや冬タイヤがなければ、冬に走行することはできない。
また、雪というのはいつ降ってくるか予測がつきにくく、例え直前まで規制が敷かれていなかったとしても、ゲリラ雪のように突然大雪となり、あっという間に路面に降り積もってしまったら、ノーマルタイヤでは成すすべがない。そのため、特に運転に不慣れな人が多いであろう帰省シーズンで、雪の降る年末年始にかけては、中国道は使わない方が無難である。
中国道のポジティブな話
ここまで散々、中国道をディスってきたが、その裏返しともいえるポジティブな点についても紹介しようと思う。
これは、中国道の役割の変化に伴うものが大きいだろう。
中国道は開通時、関西と九州を結ぶ唯一の高速道路として、物流の要となることが想定されたため、一部区間を除いて片側2車線で開通した。
一部、片側1車線(いわゆる暫定2車線)で開通した区間も、路線の重要性から早期に片側2車線化されたが、山陽道の全線開通に伴って、一挙に物流などの通過交通が山陽道に転換した。
このため、山間部を結び人口密集地もほとんど通らない中国道は、交通量が1日1万台を割るような区間でも、オーバースペックのまま残り続けているので、交通容量に圧倒的に余裕がある。
山陽道開通後の中国道の役割は、以下にほぼ集約されるだろう。
・関西以東~山陰へのメインルート
⇒神戸JCT⇔北房JCT間は、1万~3万台とそれなりに利用がある。
・陰陽連絡路1(岡山道~中国道~米子道)
⇒落合JCT⇔北房JCT間は、岡山⇔米子を結ぶ陰陽連絡道路の一部のため、こちらも1万台程度とそれなりに利用がある。
・陰陽連絡路2(広島道~中国道~松江道)
⇒広島北JCT⇔三次東JCT間は、広島⇔松江を結ぶ陰陽連絡道路の一部であるため、1万台程度とそれなりに利用がある。
この役割から外れた箇所は、交通量が1万台を割り込むなど、利用者が極端に減るため、全国的に見ても非常に閑散とした路線と言えるだろう。そのうえ片側2車線が確保されているのだから、渋滞しようがない。
前述の通り、一部を除いて物流の主流からは外れているためか、中国道を走行するトラックは非常に少ない。アップダウンも多く、距離も長く、トラックでは燃費も厳しいためか、関西から広島・九州を結ぶトラックや高速バスは、ほとんどが山陽道を経由する。
このため、前方の見通しが悪くなることも少ないし、交通量の少なさ故、追い越しが苦になるようなこともないだろう。
眠くなるような直線や緩いカーブが続く山陽道と異なり、中国道はアップダウンやカーブが多く、ドライバーが気を遣って速度調整やコーナリングをする必要があるため、交通量が少ないからといって、眠くなるような単調な道路ではない。また、昼間に走行するのであれば、春から夏にかけての一面の緑は、疲れた心がリフレッシュされる…かもしれない。
帰省ラッシュ時のサービスエリアは、駐車マスの争いも熾烈である。
休憩したいのに、駐車場にクルマを停めることができなかった。なんてこともよくある話だろう。特に人気のあるサービスエリアに至っては、駐車待ちの列が本線上に連なっている光景もよく見る。
しかし中国道では、そんな事とは無縁の世界が広がっている。
大阪に近いエリア(加西SAか、どれだけ混雑している時期でも勝央SAまで)は、比較的混みあっていることもあるが、それより西のエリアは繁忙期の混雑とも無縁だ。
ちなみに、2019年8月13日の朝8時ごろに、下りの鹿野サービスエリアを利用したが、停車していたクルマは5台ほどであった。帰省のピークは越えていたとはいえ、お盆の真っ最中にこのような状況なのだから、正直なところ営業は厳しいのだろう。
しかし、通行するドライバーのために売店やスナックコーナーは潰れずに残っていることに、感謝せずにはいられない。吉和サービスエリアの売店は閉店してしまったが…。
個人的な好みにはなってしまうが、私は最近の小綺麗なサービスエリアにありがちな、「とりあえず人気店集めたうえで食事はフードコート」みたいなものがあまり好きではない。
民営化され、エリアは綺麗になったが、何か求めているものと違う。
自分は「サービスエリア」に休憩をしに来ているのだ。ショッピングモールに来たわけではない。
確かに、同乗している人は楽しいかもしれない。ただ、運転する側が疲れを取るどころか、これでは疲れてしまうだろう。そういった意味でも、中国道(神戸JCT~山口JCT)は、例外なくすべて「休憩所」的なエリアなので、安心して休憩ができる。
寂れてはいるが、自分の記憶の中に残る古き良き時代のサービスエリアが思い出され、居心地がよい。
また、中国道は、最高で標高700mを超える中国山地を突っ切り、大都市もないので総じて夜間は涼しい。SAなどで車中泊をするときも、もしかしたら冷房が要らないくらいかもしれない。
瀬戸内地域は、夏の夜の気温が下がりにくいものだが、中国山地ならば、そんなことはない。往路は夜間に走行したが、大佐SA~鹿野SAくらいまでは外気温計が25度を超えることは無かった。
裏返せば、冬は酷寒のはずなので、冬季は山陽道を使う必要があるだろう。
次こそ中国道を使ってみよう!
ここまで紹介してきたように、中国道は、急カーブやアップダウンが多く、設備が古く、かつ交通の主流から外れたことで、山陽道のような大渋滞とはほとんど無縁な道路となっている。このため、これらの事情を知ったうえで、渋滞を回避する目的で山陽道を避けて中国道を使うという選択は、十分にアリだと思う。
カーナビでも、関西と広島・九州の相互の移動を指定すれば必ず山陽道経由のルートが指定される。
ひどいのが、中国道を経由するように指定したと思ったら、播但連絡道路などを使って、無理やりにでも山陽道へ戻そうとするルート選定がされることである。
山陽道経由の方が距離は短いし、最高速度から算出される所要時間が短いのだから仕方ないのだろう。
最近では、カーナビ頼りで地図を見ずにルート設定はお任せしてしまう。という人も多い。また、車載のカーナビは、渋滞があったとしても、柔軟にルート設定をしてくれるナビは少ない。スマホアプリなど、常時インターネットに接続している端末でなければ、リアルタイムの情報を取得することは難しいのだろうか。それゆえ、ルートに山陽道を指定されたクルマは、例え渋滞が発生したとしても山陽道へ誘導されてしまうのだろう。
もし、関西以東と広島・九州を相互に移動する機会のある方で、これまで中国道の存在を知らずに、山陽道ばかり使っている。という方がいれば、一度は中国道を使ってみて頂きたい。
山陽道の渋滞地獄が嘘のように、クルマが流れているのを体感できるはずだ。帰省ラッシュのシーズンでなくとも、往復でルートを変えるというのも気分転換になると思う。
これを見て、中国道を使ってみよう!と思った方がいれば、是非実践していただければと思う。また、交通量の少ない区間にあるサービスエリア(鹿野・吉和・七塚原・大佐)の各エリアを利用された際には、エリアの有人施設の存続を願いつつ、ショッピングや食事をしていただければと思う。
残念ながら吉和SAは2022年3月をもって閉店となってしまった…。
確かに渋滞はないけど、事故発生で通行止めになると、中国道は迂回国道が絶望的に遠くなる。
はじめまして。
2023年3月に母実家の新下関へ25年ぶりに帰省する事になり、
山陽か中国で思案している所、こちらの記事にたどり着く事ができました。
子供のころに、中国道が全線開通して直後に通った際は、
とんでもない渋滞で、SAの下から徒歩で登って(今では絶対だめですけど)トイレをして車に戻っても、数十メートルしか進んでいなかった事を、衝撃的に覚えております。
古き良き時代を思い出しながら、
母親を連れて中国道のドライブを楽しみたいと思っております。
素敵な記事をありがとうございました!