長崎新幹線は決してミニ新幹線やリレー特急方式という中途半端な方法で解決してはいけない

長崎

整備新幹線である「長崎新幹線(九州新幹線西九州ルート)」は、2022年に武雄温泉~長崎間がいわゆる「フル規格」で開業予定であるが、あくまで長崎寄りの末端区間が飛び地開業するにすぎない。武雄温泉から東、武雄温泉~新鳥栖間という、既存新幹線のネットワークに組み込むために絶対に必要な区間の開業は白紙状態となっており、沿線自治体同士の場外戦が繰り広げられている。

長崎新幹線の沿線自治体とは、長崎県と佐賀県だ。同じ路線が通る隣県なのに、どうしてここまで態度に差が出ているのだろうか。

メリットばかりの長崎県

新幹線開業でアクセス時間が大幅に短縮される

新幹線の一番のメリットは当然「時間短縮」である。これが最も顕著になるのは、長崎新幹線の終点、長崎駅だ。

現状、博多駅~長崎駅間は、特急が毎時1本ないし2本運行されていて、地方の路線としてはかなり多い本数の特急が走っている。それゆえ、整備新幹線のルートとして選定されているのだろう。

また、特急の所要時間は、博多駅~長崎駅間で、1時間50分程度。概ね2時間弱である。

これが新幹線になると、博多駅~長崎駅間が、最速51分になるという。なんと1時間もの時間短縮が見込める。多くの観光地を抱えるが、入り組んだ地形や海に囲まれた県土という特性から、観光客が入り込みにくい長崎県にとって、博多まで1時間弱でアクセスできる新幹線は、まさに願ってもないツールといえるだろう。

参考 効果 | 長崎県長崎県

スーパー特急でない「フル規格」の強さ

また、一時期検討されていた「フリーゲージトレイン」が頓挫してフル規格が前提となったのも、長崎県にとっては追い風だったかもしれない。

フリーゲージトレインは、軌間を変えて走ることができる便利な車両であるものの、機構が複雑で重量があることから、仮にフリーゲージトレインの方式で開業していれば、JR西日本が山陽新幹線への乗り入れを拒否していただろう。そうなれば、博多から東へ行くには、必然的に乗り換えが必要となり、広島や京阪神からのシェアは伸び悩む事になっただろう。

ちなみに、新大阪から直通列車が走り、比較的条件の似ている熊本は、対京阪神のシェアが、対航空機でみて30%から57%に拡大している。これは2012年時点の数値であるが、長崎新幹線も新大阪からの直通列車が走ることで、かなりのシェアを奪うことができると予想される。

観光地を多数抱える長崎であれば、アクセスが良くなれば航空との奪い合いだけではなく、新規の入り込みも大いに期待できるだろう。

参考 九州新幹線との直通運転JR西日本

在来線の経営分離が発生しない長崎県

佐賀県の肥前山口駅から長崎駅までの長崎本線は、新幹線開業後も引き続きJR九州によって運行されることが決まっている。

ただし、肥前山口駅~諫早駅の間は、JR九州から佐賀、長崎の両県に鉄道施設が譲渡され、JR九州は列車の運行のみを行う上下分離方式となる。

だが、JRが運営するということには変わりはないため、長崎県区間は、新幹線開業による並行在来線問題は、ほぼ無いといっても問題ないだろう。

参考 北海道・東北・九州新幹線の並行在来線区間国土交通省

メリットが少ない佐賀県

新幹線開業でアクセス時間の短縮は限定的

長崎県のケースでは、長崎本線が肥前山口駅以西では貧弱なため、そこにフル規格の路線を通すと、当然時短効果は大きくなる。

しかし、佐賀県のケースでは、現在でも特急を使えば佐賀駅までわずか40分弱。新幹線ができたところで、博多駅までの時短効果は15分程度だという。

先ほどの長崎駅からの1時間短縮とは、インパクトが全然異なってくる

在来線の経営分離が発生する可能性がある

佐賀県区間に関しては、並行在来線を分離するか決まっているわけではない。博多~佐賀の特急銀座を見る限りはドル箱路線かもしれないが、特急が新幹線に移行すれば、在来線を残しておく価値は、ほぼないだろう。

先ほどの長崎のケースは、「そもそも並行在来線ではない」とか、「紆余曲折を経て上下分離でJR九州が運営継続」とか、長崎県に有利なように話が進んでいた。

どのような状況だったのかはよく分からないものの、長崎県としてみれば、建設費負担は重たいものの、それを補って余りあるメリット(=大幅な時短&観光客の誘致)が得られるということもあり前向きだったが、現状の在来線で何ら不便のない佐賀県にとっては、可能性も含めた経営分離というのは、交渉のテーブルにも就きたくないような受け入れがたい話というのは容易に想像できる。

効果の大小にかかわらず建設費は等しくかかる

長崎新幹線のような整備新幹線は、国と自治体がそれぞれ建設費を負担する必要がある。今回のケースのように、新幹線の路線は通るものの、得られる効果がまるで違う場合でも、負担する建設費は長崎県も佐賀県も同じようにかかってくるという問題がある。

そこまで便利になるわけでもない、むしろ日常生活では不便になるかもしれない事業に、県民の税金を大量につぎ込むことに、佐賀県民の理解は得られないだろう。

佐賀県の言い分はとてもよくわかる…しかし

ここまで見てきたように、長崎新幹線に関係する沿線自治体である長崎県と佐賀県では、置かれている状況がまさに雲泥の差、というのがよくわかる。

メディアなどでは、佐賀県知事が長崎新幹線に噛みつくことがしばしば話題となるが、私人ではなく公人として、佐賀県民のために仕事をしているからこそ、あそこまで熱く感情的になれるのだろう。このあたりの話は、事情は異なるにせよ、リニア工事で同じようにJR東海と戦う静岡県にも通ずるものがある。

しかし、整備新幹線の地方負担を1とすれば、国の負担(つまり、全国民の税金から賄っている金額)はそのおよそ2倍の負担割合となっているのだ。

全体最適で見ればやはり全線フル規格しかない

冒頭にも書いたが、2022年には武雄温泉~長崎間が、フル規格で開業する。

この区間も当然、整備新幹線の枠組みなので、国民の税金がふんだんに使われている。しかし、佐賀県区間の開通していない飛び地路線で、フル規格新幹線の効果をフルに引き出すことは不可能だろう。

長崎新幹線という路線そのものが、本当に必要だったかは差し置いて、ここまで来てしまったのであれば、すでに造ってしまったものの効果を最大限にすることが求められるのではないだろうか。

そういった意味でも、時短効果もなく、乗り換えが必要で、京阪神とも直通できない飛び地状態は、一刻も早く解決するべきだ。

佐賀県として納得できない理由は痛いほどよくわかる。佐賀県知事も、県知事として立派な仕事をされていると思う。だが、このまま平行線をたどれば、これまでつぎ込んだ国民の税金による便益も小さくなってしまう。

利害の一致しない者同士がいがみ合っていても、いつまでも解決することはない。こういったところも、国などがしっかりと調整し、全体として最も最適となる方法を推進していくことが求められるのではないだろうか。

中途半端な状態が一番まずい

ここまで書いてきたように、ミニ新幹線やリレー特急方式という中途半端な方法で解決するのではなく、造るならフル規格。造らないなら、そもそも何もしない。というのが、今回の最適解であったように思う。

長崎県区間を先行して作ってしまった以上、佐賀県区間もフル規格による路線が必要だ。鹿児島ルートは、新八代までの部分開業をしていたが、その頃はいくら対面で特急と乗り換えができたところで、利用客数は伸びなかった。

それが、博多開業・京阪神直通によって、年々利用客が伸びており、定期「みずほ」の増発など、堅調な動きを見せている。

同じ九州の整備新幹線で、将来の明暗が分かれない事を祈るだけだ。

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