新幹線での新型コロナ感染リスクは?

名鉄三河線の複線高架化 名駅~豊田市直通の特急列車は走るのか

40万都市にしては脆弱な鉄道網の豊田市

豊田市は、愛知県のほぼ中央部に位置する人口およそ42万人の言わずと知れた工業都市である。

誤解があるといけないので補足となるが、豊田市は平成の大合併により、長野県に隣接する稲武町までをも合併しており面積が非常に広くなった。旧豊田市域だけでも人口は38万人程度であり、合併した地域は極端な過疎地域である。38万人というのは、旧額田町域を含めた岡崎市の人口とほぼ同数である。

豊田市はクルマの街だけあり、高速道路網はまるで豊田市を中心とするが如く、東名、新東名、伊勢湾岸、東海環状の各高速道路が市域を縦横無尽に通っている。

その反面、鉄道網は非常に貧弱である。市内の路線で「現実的に」名古屋市にアクセスするためには、名鉄豊田線か名鉄三河線を利用する必要があるが、いずれのルートを取ったとしても60分程度の時間を要する。

豊田市~名鉄名古屋駅間はたかだか40キロ程度なので、鉄道を使って60分もかかるというのはかなり不便である。しかし、県内で同規模の都市である岡崎や一宮より利用客数は少ないものの、決して鉄道利用者が少ないというわけではなく、豊田市駅は名鉄全駅の中でも上位10位までに入る乗降人員である(Wikipediaによれば2018年度で36,114人/日)。

ただし、岡崎、一宮などの他の都市は名鉄に限らず、JR線も並行して走っていて競合したうえでの利用客数であるため、JR線の利用者も考慮すれば豊田市よりも鉄道利用が進んでいることは間違いないだろう。しかし、これだけ不便であるにも関わらずこの数値というのは、豊田市の鉄道利用には潜在的な需要が眠っている可能性が高い。

このため、愛知県などが主体となり、名鉄名古屋駅と豊田市駅間を40分程度で結ぶための検討が進められている。

参考 名古屋―豊田40分視野 愛知県、名鉄三河線で公費投入検討日本経済新聞(2015/2/25)

名古屋~豊田間のアクセスを改善するなら豊田線か三河線か

さきほど挙げた名古屋~豊田間のアクセス路線のうち、現在検討の主流となっているのは、名鉄三河線を経由するルートである。まず、直線距離では優位なはずの豊田線経由がなぜ検討対象となっていないかについて考えてみる。

地図:三河線ルート(南回り)と豊田線ルート(北回り)

名鉄豊田線を活用しにくい理由

名鉄豊田線は1979年に開業し、赤池駅から先は名古屋市交通局(名市交)の地下鉄鶴舞線へ乗り入れている比較的新しく高規格な路線である。豊田線内に踏切は存在せず半径の小さいカーブもないため、高速運転には適した路線であるが、乗り入れ先の地下鉄鶴舞線内は駅間距離が短いうえに当然のように各駅停車である。また、名駅へアクセスするためには御器所あるいは伏見で必ず一度の乗り換えが発生するのもマイナスポイントとなる。

三河線の対案として検討されるのが、豊田線~地下鉄鶴舞線内の急行運転である。しかし、豊田線内は現行で日中毎時4本を運転するダイヤでかつ駅間距離も長い。通過駅への配慮も含めて、普通4、急行2程度のダイヤで運行することが現実的だろう。しかし、豊田線は名鉄の路線なのでそれでいいとして、鶴舞線内の通過運転は名鉄だけではなく名市交が絡んでくるため様々な障壁がある。

そもそも、伏見以東の鶴舞線で通過できそうな駅は、乗車人員から考えても、「いりなか」「川名」「荒畑」の3駅くらいである。乗車人員だけで見れば御器所は通過できそうだが、桜通線で名駅に出たい場合は乗り換え駅となるため停車は必須だろう。1駅1分の短縮ができるとして、3分程度の短縮にしかならない。

乗車人員は無視して、思い切って通過させまくるのはどうか。鶴舞線内の停車駅は、赤池、八事、御器所、上前津、伏見のみにする。こうすると9駅通過できる。豊田線内は割り切って全駅通過にしてしまえばさらに7駅通過できる。1駅1分、と考えたら単純計算で16分の短縮が可能だ。豊田市~伏見はおよそ30分となり、乗り換えを含めても豊田市~名古屋駅は40分アクセスが実現可能である。

しかし、鶴舞線内には当然ながら緩急接続の設備は無い。また、地下鉄は基本的に等間隔のパターンダイヤで運転されている。その中に通過列車を組み込むことで、列車間隔が不均等となる。既存のパターンの合間を縫って急行を潜り込ませるような形なら影響を少なくできるかもしれないが、純増する列車のために必要な人件費や車両のやり繰りは名市交が担う事になる。また、地下鉄線内で9駅通過するのならば、日中でも7.5分間隔ダイヤのため先行列車に追いつくのは確実だ。そのため、緩急接続(もしくは退避)できる駅をつくる必要があるが、それも名市交の負担となる。

名市交がそこまでお膳立てをしてくれるかといえば「NO」だろう。

地下鉄というのは本来、市域内での移動を念頭に置いて建設されている。しかし、名駅~豊田市駅間の移動利便性向上の目的というのは、名駅を軸として東京や大阪などの遠方を含めたマクロな移動の利便性を向上させる意味合いも大きい。そう考えた時、市域内の移動利便性の向上を最重要と考える名市交が、名古屋~豊田間の速達移動に関する投資をするという選択にはなりにくい。これを説得するだけの材料を、愛知県も豊田市も名鉄も持ち合わせていないため、三河線そのものの利便性向上も含めて、三河線経由という選択が適切だと判断したのだろう。

名鉄三河線を活用する理由

名鉄三河線は、前身の三河鉄道の時代から通算すれば、およそ100年の歴史をもつ路線である。高規格な豊田線とは対称的に、線形も規格も貧弱であり、未だに路線の大半の区間ではPCマクラギではなく大半で木マクラギが使用されている。豊田市~知立間は三河八橋駅付近のごく一部を除いて単線であり、スプリングポイントが使用されている駅も多いことから、駅進入速度も非常に遅く、高速化の大きな障壁となっている。時にはポイントに亀が挟まることもあり、そんなニュースが似合う大いなるローカル線である。

そんなローカル線なので、車両についても本線系統での役目を終えて支線に転出してきたものが充当されることが多く、今も変わらず旧式車が余生を過ごす路線である。豊田市から知立駅まではわずか16km弱だが、そこをだいたいの列車が25分程度かけて走ってゆく。ほとんど同じ距離の前後~金山間が急行でおよそ15分。退避のある列車でもおよそ20分であることを考えると、いかに遅いかがよく分かる。

名鉄一の大幹線である名古屋本線とは知立駅で接続しているが、三河線の列車は全て知立どまりであり、名古屋方面へ行くためには必ず乗り換えが必要となる。名古屋方面へは特急または快速特急へ乗り換えとなるが、接続は上下方向いずれも10分ほどかかるため、タイムロスが著しい。

しかし、裏を返せば三河線内を本線急行並みの速度で走行できて、知立駅での接続待ちがなくなれば、単純に計算しても三河線内の速達運転で10分、接続待ち10分の合計20分程度が短縮できることになる。およそ60分の所要時間のうち、3分の1である20分が短縮できるとなれば、かなりのインパクトが見込めるのではないだろうか。また、対案の豊田線と比較して関連する鉄道事業者が名鉄1社だけというのも大きいだろう。

また、名駅との速達化は豊田市の悲願でもある案件である。このため、三河八橋や若林の高架化でもそうだったが、都市計画で積極的に高架化(複線規格)を進め、あとは名鉄が線路を引くだけの状態までにお膳立てをしてくれているのも大きい。

三河線は今でこそ大いなるローカル線であるが、今が不便すぎるがゆえに、本気を出して改善すれば一気に時間短縮を図ることのできる路線である。「伸びしろ」という観点で考えれば、大いなるポテンシャルを秘めているといえるだろう。

豊田線と三河線は食い合いではなく、棲み分けとなる

仮に三河線が高規格化され、晴れて名駅~豊田市駅間が40分で結ばれたとすると、もう一方の対名古屋アクセスのために作られた豊田線の立場が無いのでは?と考える方も多いかもしれない。しかし、このケースでは三河線経由の場合と明確に棲み分けをすることができる

まず、豊田市駅を除いた豊田線の利用者は、名古屋市内へアクセスするためには引き続き豊田線を使った方が利便が良い。また、豊田線は中間駅の利用者数も名鉄の中では多く、1日に1万人程度の乗降客数がある駅が日進、浄水、三好ヶ丘と3駅もある。1日1万人の乗降というのは、西尾駅や知多半田駅などとほぼ同等の数字であることから、豊田市駅からの利用の一部が三河線経由となったところで、需要が大きく減少することはないだろう。

豊田線沿線は浄水、米野木周辺をはじめとして引き続き開発が活発なエリアであり、地価も堅調で住宅地としても人気の高いエリアが多い。愛知大学の撤退した黒笹は大幅に乗降客が減少したものの、愛知大学跡地には大規模な住宅地が造成され、駅からも徒歩圏内であることから再び利用客は伸びていくだろう。

また、豊田市駅の利用ユーザーについても一部は豊田線から三河線に流れるだろうが、それはあくまで金山、名駅に用のある利用者である。金山、名駅に用がない限りは、これまで通り豊田線を利用することになるだろう。例えば、目的地が伏見や栄といった地下鉄エリアの駅であれば、運賃面からも所要時間面からも、豊田線経由のほうが優位である。対名古屋駅では三河線を利用し、対地下鉄駅(伏見・栄)であれば地下鉄を引き続き利用するという棲み分けが自然となされるだろう。

実現の時期やダイヤについての考察

※ここからは完全に個人の想像レベルの話。名古屋本線は非常に過密ダイヤですあるものの、知立高架化にあわせて大幅なダイヤ改正が行われることは間違いないため現行ダイヤのどこに豊田直通を取り込むかといった部分を考えるのは野暮。

なお、知立駅の高架化事業は、令和4年3月に工期が5年間延長され、2028年まで延長されることが決まっている。

参考 知立駅付近連続立体交差事業の概要

試験的な直通は2028年度の知立高架化がメドか

三河線が名古屋本線と接続する知立駅は、2028年度完成を目標として高架化工事の真っ最中である。これが完成すると、名古屋本線2面4線、三河線2面4線の4面8線という名鉄の中でも最大規模の駅が完成する。これまでの知立駅が3面5線構造で、名古屋本線の列車の退避ができなかったことを考えると、この完成は名古屋本線のダイヤにも大きな影響を与えるだろう。このため、三河線から名古屋本線に直通する列車を1時間に1~2本程度試験的に運転し、直通需要の確認、掘り起こしを行っていく可能性が考えられるのではないかと考える。

また、三河線内も若林駅付近の高架化が2024年度に完成予定であり、2面4線構造の駅が若林駅にできることになる。さすがにオーバースペック間は否めず、現行ダイヤで2面4線を活かすことはできないため、開業からしばらくの間は2面2線の高架駅として使用される予定である。ただし、線路を敷こうと思えばいつでも敷ける状態にすることで、名鉄としても利用の動向などを見定めた上で複線化が行われる事も考えられる。その場合、お膳立てができている三河八橋駅~竹村駅南までは複線化がされるだろう。

ただ、試験直通段階では需要の問題もあり、三河線内は現行と同じ毎時4本での運転となると思われる。このため全ての駅で停車本数を確保しようと思うと優等運転は難しい。よって当面の間は三河線内は普通で、知立から名古屋までの間を急行または全車一般車の特急として運転することが現実的なプランだろう。ただし、直通需要を計るという意味では名古屋まで無退避であることは必須であると考える。

この時点で、知立での乗り換え時間が短縮され、名古屋まで45分程度にできれば理想的だろう。

フルスペックでの実現時期はリニア開業以降にずれ込むか

リニア名古屋開業の2027年に合わせて、名駅~豊田市間の40分直通計画は完成が見込まれていたが、リニアの開業の雲行きが怪しいことに加え、現状三河線内で若林付近を除いて、複線化の具体的な話が見えてこない。

最終的な形として、知立~豊田市間は全線が複線化され、直通列車が毎時2本程度は運行されるものと思われるが、具体的な計画が定まっているのは、2024年度完成の若林高架化のみである。また、竹村~上挙母間は平面による複線化の案が出ているようだが、平面での複線化にもそれなりの計画や工期が必要なはずである。にも関わらず、若林以降の計画が何も出てこないという事は、当面の間はフルスペックで直通列車が走るという事は、まず無理ではないか?ということだ。

特に、上挙母~豊田市間は、既存路線が単線高架かつ市街地なので、複線化の難易度は非常に高いだろう。

とはいえ、全ての区間で複線化しなければ線内優等が運転できないわけではない。フルスペックの最速40分には届かないかもしれないが、先ほどの試験運行をベースとしてある程度速達化による需要が見込めたところで、まずは朝夕のピーク時間帯に増発を行い、三河線内の優等列車としても運行を始めるというのが落としどころになるのではないだろうか。現在の三河線は朝夕のラッシュ時でも4両編成×4本しか運転されておらず大変な混雑具合のため、そこの増発を優等列車で行うのは理に適っているだろう。ただ、豊田市~猿投間は豊田線と重複する豊田市~梅坪間が朝ラッシュ帯に過密運転されているうえに梅坪~越戸は単線で平戸橋駅には交換設備すらない。このため、豊田市駅を現在の2面3線から2面4線に拡大し、1線を使用して豊田市駅で知立方に折り返せる構造にする必要があるのではないかと思われる。(豊田市駅1番線の西側は、高架化時に名鉄が用地を取得しておりその気になれば増線は可能)

また、線内優等が始まったタイミングで、朝夕に関しては特急車両による特別車の運用も始まるのではないだろうか。名駅から豊田市駅まではおおよそ東岡崎までと同等の距離・所要時間になるものと思われる。名鉄の特別車は、料金が1乗車450円(2024年3月16日から)と安価で気軽に利用できるため、距離が遥かに短い津島線などでも夕方には一部特別車の特急が設定され利用されている。特別車は距離が長い方が割安となって利用価値も上がるため、豊田市までの特別車需要も十分に見込めるものと思われる。

まとめ:三河線を経由した名古屋との直通特急列車について

ここまで書いてきたように、名鉄三河線を経由する特急列車の運行については具体的に明言されていないものの、知立駅の高架化や三河線内の複線化など、実現に向けて準備が進んでいるように思われる。そして、これらのインフラ整備が進めば、名鉄としては徐々に直通列車を走らせてみようという機運が高まることは間違いないだろう。

豊田市は、トヨタ自動車の本社をはじめ、豊田市駅から徒歩圏内に位置する豊田スタジアムやスカイホール豊田など、遠方からのビジネス客や観光客を取り込むだけの観光資源・ポテンシャルを持った都市である。現状はそのような人たちに、名古屋から60分もかかることを理由に「遠すぎてもう来たくない」と思われているのが残念なところだ。

2028年の知立駅の高架化を控え、名鉄がどのような手を打ってくるのか引き続き注目される。

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