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結論:特に理由が無ければ東北新幹線を利用する事をおすすめ
前回、東京~名古屋を「新幹線ではなく飛行機で移動する」という記事を書いたが、合理性の面では言うまでもなく新幹線の圧勝であり、今回もそれに近い面のある記事であるため、最初に結論を述べておくことにする。
東京~仙台を移動する場合は、原則として東北新幹線の利用をおすすめ!
東北新幹線によほどの事が発生しなければ実用レベルではない。
あくまで「移動できる」レベルだと理解しておいたほうがよい。
この結論ありきで、今回は特急「ひたち」の良いところやアピールポイントを探しながら記事にしてみた。もし時間があれば続きを読んで頂ければ幸いである。
東北新幹線の対抗馬?「特急ひたち」とは(2022年7月時点)
特急ひたちは、東京(品川)~いわき・仙台間を、主に常磐線経由で結ぶ昼行特急である。その営業距離は373.9㎞と、日本を走る在来線昼行特急としては5本の指に入るほどの長距離列車である。JR東日本エリアでは堂々の1位であり、在来線の看板特急と言える立場にあるだろう。
大半の列車は、品川駅を始発としていわき駅までの運行となるが、1日に3往復だけは仙台まで足を延ばして運行されている。東京~仙台を乗り通す場合の所要時間と料金は以下のとおりである。なお、表中では便宜的に東京駅基準の時刻を載せている。
- 所要時間:約4時間30分
- 料金:9,280円(全車指定席・通常料金)
- 【参考】 新幹線はやぶさ号:11,410円(全車指定席・通常料金)
- ひたち3号 東京7:53⇒仙台12:29
- ひたち13号 東京12:53⇒仙台17:25
- ひたち19号 東京15:53⇒仙台20:28
- ひたち14号 仙台10:14⇒東京14:42
- ひたち26号 仙台16:06⇒東京20:43
- ひたち30号 仙台18:02⇒東京22:43
東京~仙台間を運転する「ひたち」号は、東京から仙台を結んでいるとはいえ、基本的には東京と仙台を通しで利用する用途を想定しているわけではなく、相馬、原ノ町などの常磐線沿線の都市からの東京直通を確保する手段として設定されている。
これらの都市は、「ひたち」号がなければ、仙台まで出たうえで東北新幹線を利用するか、いわきまで普通列車で出たうえで「ひたち」号を利用するなどの方法しか東京へ出る手段がない。このため、公共交通を利用して東京へ出る場合は、時間を優先して仙台経由の大回りで東北新幹線を利用するか、料金を優先して在来線でいわきまで出てからひたち号に乗車するかの苦しい選択となっている。
直通列車が1日に3本とはいえ存在することで、これらの地域と首都圏を結ぶ重要なライフラインとなっていることは間違いないだろう。
なお、これらの地域は東日本大震災で甚大な被害を受けた地域でもある。震災前は、ひたち号の系統をいわきで完全に分断し、仙台~いわき間は別の特急を走らせる計画だったようだが、震災復興を機に仙台直通を続行することとなった。
2022年3月に発生した福島県沖地震は記憶に新しいところだが、この地震において、東北新幹線は福島~仙台間でおよそ1か月の運休を余儀なくされた。このときには、一足早く復旧した常磐線を利用して、いわき止まりの特急を延長する形で臨時快速がいわき~仙台間で運転された。(実質的に特急)
この時には航空会社も、普段は運行していない羽田~仙台便などを運航していたが、もちろん運賃は片道2万円を超える通常運賃しか設定されておらず、一般人が気軽に利用できる価格帯ではなかった。
非常時なのでやむを得ない対応だし、それで助かった人も多くいただろうが、多少時間がかかっても鉄道の料金で移動できるというのは、「ひたち」号が仙台まで直通する一つの意味ではないだろうか。
「特急ひたち」を利用して東京~仙台間を移動するメリット
特急ひたち号は、在来線特急だけあって、料金は新幹線よりも安価に設定されている。詳しくは以下の表を確認いただきたい。
紙のきっぷを購入する場合、東北新幹線(はやぶさ)よりおよそ2000円安くなる。ただし所要時間はおよそ3時間余計にかかる。時間を優先するか料金を優先するかになるだろうが、ひたちの方が安価であることは間違いない。
列車 | 所要時間 | 料金(指定席) |
---|---|---|
特急「ひたち」 | 約4時間30分 | 9,280円 |
東北新幹線(※) | 約1時間40分 | 11,410円 |
※通常料金の東北新幹線は「はやぶさ」号に乗車する前提とする。
えきねっとトクだ値(30%OFF)を購入する場合、東北新幹線(はやぶさ)よりおよそ1000円安くなる。また、東北新幹線における東京~仙台間のトクだ値は一部のやまびこ号に限ってしか利用できない。
それでも所要時間は2時間以上の差が発生するが、安いのは「ひたち」である。
列車 | 所要時間 | 料金(指定席) |
---|---|---|
特急「ひたち」 | 約4時間30分 | 6,490円 |
東北新幹線(※) | 約2時間~2時間30分 | 7,610円 |
※東北新幹線はえきねっとトクだ値が利用できる一部の「やまびこ」号に乗車する前提とする。
ひたち号の座席は非常に快適で、普通車は全席2×2のシートとなっているため、東北新幹線の2×3シートと比較してゆったりと座ることができるシートである。
また、全席にコンセントが設置されており、東北新幹線E5系では一部車両を除いて窓側座席にしかコンセントがないので、サービスレベル面ではこちらの座席に軍配が上がるだろうか。
座り心地についても概ね良好で、硬めではありながらも仙台~東京を4時間半乗り通してみて、特に苦痛を感じるような事はなかった。
予想はしていたが、途中で増解結を含まず全区間で10両の長大編成で運転される列車であるがゆえ、仙台~水戸までは輸送力過剰といった印象が強い。土曜日の朝10時に仙台を出発する「ひたち14号」に乗車したが、水戸以南は比較的乗車率が高いとはいえ、隣席に人が来るほどの乗車率は無かった。
乗車する側にとって空いているのは快適に違いないので、これは新幹線と比較すると大きな利点になるのではないだろうか。
新幹線にないものといえば、やはり在来線特有の「旅情」だろうか。
今回は仙台から南下するルートで乗車したが、大宮~仙台でノンストップの「はやぶさ」だと、風景をゆっくり眺めて移動することなど極めて困難だ。
しかし、ひたち号であれば仙台から東京まで、移り変わる車窓をゆっくりと眺めながら移動することができる。
仙台から日立市付近までは広大な農地や自然の中を走っていき、そこから先は徐々に住宅地を走ることが多くなっていく。そして水戸を出てもしばらくは長閑な雰囲気だが、やがて千葉県との県境にさしかかり、柏・松戸と進んでいくと風景は大都市のそれに変わっていく。そして最後は東京のビル群に吸い込まれていくのだが、こういった移り変わりをのんびりと楽しめるのは在来線ならではだろう。
しかし、福島県は東日本大震災と、それによる原子力発電所の災害で大きな被害を受けた。今でもその復興作業は続いており、常磐線はその真っ只中を通ることになる。写真の双葉駅周辺は「復興拠点」として定められており、住人の帰還などのための開発が盛んに行われていた。
震災後は絶望とも思われた鉄路も復旧し、このように特急列車が走るという事は、被災地の復興に大きな力となることだろう。
時間があるときに気分転換に利用してみては…
では、料金が少しだ安く、全席にコンセントがあり、車内は空いていて旅情を感じられるので、東京~仙台間の移動で積極的に特急「ひたち」を利用する価値はあるのかと言えば、残念ながらほとんど無いと言えるだろう。
料金がほんの少し安いのはメリットではあるが、その分の時間を新幹線で短縮して出先で使った方が有意義であると思えるし、全席コンセントに関しても、東北新幹線を予約する時点でコンセントのある席を指名買いすれば済む話である。(そもそも1時間半で着くので、よほどバッテリー事情がひっ迫していない限りは無くてもさほど困らない)
また、「旅情」に関しては完全に主観の問題であるため、合理性には全く寄与しない。
よって、東京~仙台間を特急「ひたち」に乗って移動するのは、ほとんど趣味の領域と言えるだろう。もちろん、鉄道好きであれば新幹線より楽しいと思うし、苦痛と感じることはないと思う。
まだ乗ったことがない。ということであれば、一度は乗ってみると良いかもしれない。