整備新幹線である「西九州新幹線(九州新幹線西九州ルート)」は、2022年9月23日に武雄温泉~長崎間がいわゆる「フル規格」で開業予定であるが、あくまで長崎寄りの末端区間が飛び地開業するにすぎない。武雄温泉から東、武雄温泉~新鳥栖間という、既存新幹線のネットワークに組み込むために絶対に必要な区間の開業は白紙状態となっており、沿線自治体同士の場外戦が繰り広げられている。
西九州新幹線の沿線自治体とは、長崎県と佐賀県だ。同じ路線が通る隣県なのに、どうしてここまで態度に差が出ているのだろうか。
目次
新幹線の一番のメリットは当然「時間短縮」である。これが最も顕著になるのは、西九州新幹線の終点、長崎駅だ。
現状、博多駅~長崎駅間は、特急が毎時1本ないし2本運行されていて、地方の路線としてはかなり多い本数の特急が走っている。それゆえ、整備新幹線のルートとして選定されているのだろう。
また、特急の所要時間は、博多駅~長崎駅間で、1時間50分程度。概ね2時間弱である。
これが新幹線になると、博多駅~長崎駅間が、最速51分になるという。なんと1時間もの時間短縮が見込める。多くの観光地を抱えるが、入り組んだ地形や海に囲まれた県土という特性から、観光客が入り込みにくい長崎県にとって、博多まで1時間弱でアクセスできる新幹線は、まさに願ってもないツールといえるだろう。
また、一時期検討されていた「フリーゲージトレイン」が頓挫してフル規格が前提となったのも、長崎県にとっては追い風だったかもしれない。
フリーゲージトレインは、軌間を変えて走ることができる便利な車両であるものの、機構が複雑で重量があることから、仮にフリーゲージトレインの方式で開業していれば、JR西日本が山陽新幹線への乗り入れを拒否していただろう。
そうなれば、博多から東へ行くには、必然的に乗り換えが必要となり、広島や京阪神からのシェアは伸び悩む事になっただろう。
ちなみに、新大阪から直通列車が走り、比較的条件の似ている熊本は、対京阪神のシェアが、対航空機でみて30%から57%に拡大している。これは2012年時点の数値であるが、西九州新幹線も新大阪からの直通列車が走ることで、かなりのシェアを奪うことができると予想される。
観光地を多数抱える長崎であれば、アクセスが良くなれば航空との奪い合いだけではなく、新規の入り込みも大いに期待できるだろう。
佐賀県の肥前山口駅から長崎駅までの長崎本線は、新幹線開業後も引き続きJR九州によって運行されることが決まっている。
ただし、肥前山口駅~諫早駅の間は、JR九州から佐賀、長崎の両県に鉄道施設が譲渡され、JR九州は列車の運行のみを行う上下分離方式となる。
だが、JRが運営するということには変わりはないため、長崎県区間は新幹線開業による並行在来線問題は、ほぼ無いといっても問題ないだろう。ただ、将来的な収支によっては、3セク化などの判断は当然発生すると思われる。
長崎県のケースでは、長崎本線が肥前山口駅以西では貧弱なため、そこにフル規格の路線を通すと、当然時短効果は大きくなる。
しかし、佐賀県のケースでは、現在でも特急を使えば博多駅から佐賀駅まではわずか40分弱。新幹線ができたところで、博多駅までの時短効果は15分程度だという。
先ほどの長崎駅からの1時間短縮とは、インパクトが全然異なってくる
佐賀県区間に関しては、並行在来線を分離するか決まっているわけではない。
ただ、博多~佐賀の特急銀座を見る限りはドル箱路線かもしれないが、特急が新幹線に移行すれば、在来線を残しておく価値は、ほぼないだろう。
先ほどの長崎のケースは、「そもそも並行在来線ではない」とか、「紆余曲折を経て上下分離でJR九州が運営継続」とか、長崎県に有利なように話が進んでいた。
長崎県としてみれば、建設費負担は重たいものの、それを補って余りあるメリット(=大幅な時短&観光客の誘致)が得られるということもあり前向きだったが、現状の在来線で博多までのアクセスが何ら不便のない佐賀県にとっては、可能性も含めた経営分離というのは、交渉のテーブルにも付きたくないような受け入れがたい話というのは容易に想像できる。
西九州新幹線のような整備新幹線は、国と自治体がそれぞれ建設費を負担する必要がある。その割合は、国が3分の2を負担し、自治体の負担が3分の1である。
今回のケースのように、新幹線の路線は通るものの、得られる効果がまるで違う場合でも、負担する建設費は長崎県も佐賀県も同じようにかかってくるという問題がある。
そこまで便利になるわけでもない、むしろ日常生活では不便になるかもしれない事業に、県民の税金を大量につぎ込むことに、佐賀県民の理解は得られないだろう。
ここまで見てきたように、西九州新幹線に関係する沿線自治体である長崎県と佐賀県では、置かれている状況がまさに雲泥の差、というのがよくわかる。
メディアなどでは、佐賀県知事が西九州新幹線に噛みつくことがしばしば話題となるが、私人ではなく公人として、佐賀県民のために仕事をしているからこそ、あそこまで熱く感情的になれるのだろう。このあたりの話は、事情は異なるにせよ、リニア工事で同じようにJR東海と戦う静岡県にも通ずるものがある。
しかし、整備新幹線の地方負担を1とすれば、国の負担(つまり、全国民の税金から賄っている金額)はそのおよそ2倍の負担割合となっているのだ。
末端部分だけ開業した西九州新幹線では、その建設費の回収はおろか赤字を垂れ流し続けるだけであろう。先行開業させてしまったことに賛否両論あると思うが、今更どうしようもない事実であることは揺るぎない。
大量の税金を投入して造ったインフラが永遠に赤字を垂れ流し続ける。これに国民の理解は得られないだろう。もちろん、全線フルであっても試算とは異なった数値が出るかもしれないが、費用便益分析で3を上回る利益が出ると試算された路線だ。1を超えれば利益があると判断されるので、かなり自信のある数字なのだろう。
もし全線フルですら大赤字になるようであれば、それは試算した国の責任であるから、その時は政治責任を問うべきだ。
造ってしまったインフラを活用するためには、新幹線網がネットワークとして機能することは大前提である。
冒頭にも書いたが、西九州新幹線が2022年9月23日、武雄温泉~長崎間がフル規格で開業する。
この区間も当然、整備新幹線の枠組みなので、国民の税金がふんだんに使われている。しかし、佐賀県区間の開通していない飛び地路線で、フル規格新幹線の効果をフルに引き出すことは不可能だろう。
西九州新幹線という路線そのものが、本当に必要だったかは差し置いて、ここまで来てしまったのであれば、すでに造ってしまったものの効果を最大限にすることが求められるのではないだろうか。
そういった意味でも、時短効果もなく、乗り換えが必要で、京阪神とも直通できない飛び地状態は、一刻も早く解決するべきだ。
佐賀県として納得できない理由は痛いほどよくわかる。佐賀県知事も、県知事として立派な仕事をされていると思う。だが、このまま平行線をたどれば、これまでつぎ込んだ国民の税金による便益も小さくなってしまう。
利害の一致しない者同士がいがみ合っていても、いつまでも解決することはない。こういったところも、国などがしっかりと調整し、全体として最も最適となる方法を推進していくことが求められるのではないだろうか。
ここまで書いてきたように、ミニ新幹線やリレー特急方式という中途半端な方法で解決するのではなく、造るならフル規格。造らないなら、そもそも何もしない。というのが、今回の最適解であったように思う。
長崎県区間を先行して作ってしまった以上、佐賀県区間もフル規格による路線が必要だ。鹿児島ルートは、新八代までの部分開業をしていたが、その頃はいくら対面で特急と乗り換えができたところで、利用客数は伸びなかった。
それが、博多開業・京阪神直通によって、年々利用客が伸びており、定期「みずほ」の増発など、堅調な動きを見せている。
同じ九州の整備新幹線で、将来の明暗が分かれない事を祈るだけだ。
2年ほど前山形新幹線に乗車し非常に快適な旅であった。改軌された在来線区間は通勤通学の足と東京方面からの旅客を運ぶ新幹線の設備が共用され、元の在来線特急が停車していた駅も新幹線停車駅となり地元の恩恵が多いと思う。長崎新幹線も佐賀県内通過は
在来線を改軌(単線又は複線)することが地元の足と西日本方面へ直通可能な新幹線の恩恵を双方受ける最適解と思う。ミニ新幹線は中途半端ではなく双方を立てる人間の知恵であり、上から目線のフル規格は佐賀県民に不便と負担を強いるだけで無理と無駄と思う。
コメントありがとうございます。
私が問題視しているのは、やはり長崎までの末端区間が既にフル規格で建設されているということです。
最初からミニ新幹線で建設がされていれば、特に異論を挟む余地はありません。
しかし、仮に長崎⇒鳥栖以遠と移動するときにフル⇒在来⇒フルという乗継を要するのであれば、
利用者の利便性を大きく損ねます。
長期的な視点では、フル規格で整備しきったほうが確実に利便性向上に繋がると考えます。
また、地域の足という意味ではJRとしては存続しなくなりますが、鉄道が消えて無くなるわけではありません。
3セク化したからといって維持できないようであれば、在来線にそこまでの需要は無かったというだけの話でしょう。
「維持できないようであれば、在来線にそこまでの需要は無かったというだけの話」というのが上から目線の考え方と思います。フル規格新幹線が通ればJRは確実にお荷物の在来線を手放し、JRが運営しない在来線はいずれ存続できず通勤通学の足はなくなる(廃線)という状況が浮かびます。佐賀県は在来線の維持を望んでいるのであります。山形新幹線の在来線は今もJR東日本の管理下で地元の足と東京方面への新幹線の運用が確保されています。佐世保方面へも改軌するなど利便性を高める検討をしつつ、通勤通学の足確保と山陽方面直通との両立が可能なミニ新幹線方式しか解決策はないと思います。
全くそのとうりと感心しました。秋田に何回か視察に行き地元の人にミニ新幹線の問題点を尋ねましたが、特に問題無く県内では多くの駅で停車するので地方において普通の新幹線より便利で、盛岡ではやぶさに連結すれば320kで行けて便利ですとの話。私自身乗車して特に不満もありませんでした。
私も、末端区間をフルで整備した上にFGTが頓挫してしまった現状では、全線フルで整備が最適解だと思います。
ただ、現在の整備新幹線は、地元が建設費の負担と在来線の分離に同意することが条件で、メリットのない佐賀県に上記条件を飲ませるのは無理筋に過ぎると思います。
全線フルで便益を受けるのは長崎県なので、受益者負担の原則に立ち返り、佐賀県区間の地元負担や在来線維持費(末端区間と同様、地元負担があればJRのまま維持することは可能)を長崎県が負担するのが妥当でしょう。
佐賀県側はフル整備されなくとも何の問題もないと考えているので、長崎県側から、必要な費用は長崎県が全部負担するのでフル整備に同意してください、と佐賀県に頭を下げるくらいでなければ、リレー方式で固定されてもやむを得ないと思います。
コメントありがとうございます。
確かに、受益者負担という観点で、佐賀県民が一切の利益を受けないのであればその通りかと思います。
ただ、仮にそうした場合は長崎県としては佐賀県に駅を造る義務は一切無くなるのでしょうかね?
長崎県がお金を出すなら佐賀に駅を造れとは、さすがに言わないと思いますが…。
利用者数を考えると、佐賀市中心部に駅を作らないというのは無理があるし、JRが納得しないでしょうね。
受益者負担という点からは、長崎県が佐賀駅設置費の負担拒否は納得出来るし、そこだけ佐賀県が負担するか、営業上必要との判断からJRが負担するか、で良いと思います。
今のままなら「リレー固定化」となり、乗客はほとんど高速バスに流れ、最終的には「時間切れ建設断念+新幹線廃線」になるかと思います。長崎は博多にすら直通できず、よもやの出島化(陸の孤島化)になり、観光客はおろかイベントも誘致できず、衰退の一途でしょう。佐賀は今以上に福岡に近いというメリットを最大限活用して、地位的には長崎を逆転するでしょう。もちろん県民レベルでの感情的対立は激化するでしょうが。
私的にはFGTがダメになった時点で、一時建設を中断すべきでした。そこで道筋を立てるべきでしたが…(この時点ならばスーパー特急にして、見返りに夜行特急での関西圏直通、という手が最適解でした)。ここまできた以上、ミニ新幹線しか解決策はないと思うのですがね。最悪の結末しか見えませんね。
末端をフル規格で整備してしまった以上は、途中区間もフルで整備しないと意味がない、というスタンスに異論があります。
ミニ新幹線は、当該区間は在来線と同等ですが、標準軌なのでフル規格区間と円滑につながります。フル規格区間と親和性がありながら、整備コストを半額以下に抑えることができる、良くできた仕組みです。実質面で優位がありながら浸透しないのは、財源スキームが確立していないからで、この点を政策的に手当てする知恵だしが求められるに過ぎません。フリーゲージでの整備という元々の前提と比べても決して中途半端な存在てはありません。
>ミニ新幹線は、当該区間は在来線と同等ですが、標準軌なのでフル規格区間と円滑につながります。フル規格区間と親和性がありながら、整備コストを半額以下に抑えることができる、良くできた仕組みです。
ミニ新幹線による効果が乏しいので整備スキームが整理されないのかと。
コスト削減も半額以下とは思えません。
ミニ新幹線は現行の在来線を改軌することになりますが、当然その間は在来線を運行することはできません。
新鳥栖~武雄温泉間は、在来線の運行本数も多く、完全運休で工事することは不可能でしょう。
運行しながら改軌するとなれば、フル規格とコスト面でそう変わらない上に遅いという
最も中途半端な路線が出来上がることになります。
また、九州新幹線との直通はできますが、ミニ新幹線ゆえに輸送力は乏しく、
山陽新幹線との乗り入れにはJR西日本が難色を示すおそれもあります。
FGTが頓挫した今、結局はフル規格を目指すのが最も効果的と言えるでしょう。