JR東海・西日本・九州の3社は2019年8月29日にプレスリリースを発表し、東海道・山陽・九州新幹線の車両に特大荷物置き場を新設するとともに、それらの荷物置き場の使用のしかたについて以下の資料で説明しています。
参考 東海道・山陽・九州新幹線 特大荷物置場の設置と事前予約制の導入についてJR東海
読んでいてわかりにくい点を中心に、どのように変わるのか、どのような問題が起きそうかについて、解説・考察をしていきます。
目次
これまで、新幹線に持ち込むことができる荷物として、身の回り品を除いた荷物のうち、3辺の長さが250㎝以下、かつ長さ200㎝以下で、重さ30㎏以内、かつ携帯できる荷物であれば、2個までは自由に持ち込むことができました。しかし、近年のインバウンド需要の増大などの理由により、大型の荷物を持ち込む人(特に外国人旅行客)が増加しており、新幹線にそのような荷物を置ける場所が車端部(最後部座席の後ろ)しか無かったことから、最後部座席の指定を持っていないにも関わらず巨大な荷物を最後部座席後ろに置かれ、最後部座席の指定を持つ旅客が座席のリクライニングをすることができないなど、トラブルになる事象が多かったものと想定されます。
縦、横、高さの3辺の長さが、161cm以上、250cm以下の荷物が、「特大荷物」という扱いとなります。長さだけではあまりピンと来ませんが、飛行機の国際線での預け入れできる荷物の上限が3辺で250㎝までの荷物ですので、要は、外国人観光客のスーツケースのような荷物が特大荷物として該当するものと思われます。通常の国内旅行程度の荷物であれば、荷物棚に入らないような大きさにはまずならないはずなので、心配する必要はないでしょう。それでも心配であれば、サイズには明確な基準があるので、事前に計測しておくと安心です。
新幹線に持ち込んだベビーカーは特大荷物という枠ではありませんが、このような場合にも柔軟に利用ができるようです。
インターネット予約および駅窓口、券売機での予約が可能となります。また、ややこしいのですが、荷物置き場を単独で予約するのではなく、「荷物置き場と紐づいた指定席」を予約することで、荷物置き場の使用権を確保できる、というのが正しいようです。
乗車前に前項の方法で予約をしていれば、無料です。ただし、予約せずに特大荷物を持ち込んでいることが車内で発覚した場合は、ペナルティの意味も含めた1,000円を支払って、車掌が指定する場所に荷物を収納する必要があるということです。
現在、東海道・山陽・九州新幹線には、今のところ専用の荷物置き場がありません。このため、車両に荷物置き場を新設することがプレスリリースにも記載されています。それに加えて、これまで自由に使われていた最後部座席後ろのスペースについても、最後部座席の指定とセットで、荷物置き場の使用権が得られる仕組みとなるようです。
このサービスは、2020年5月から始まりますが、荷物置き場の新設には、車両の新造や改造が必要となります。恐らく、今後新造されるN700Sには最初から設置。N700Aに関しても、まだまだ活躍するはずなので全編成に設置されるでしょう。ただ、N700系の若番編成に関しては、車両の寿命や使用予定にもよると思いますが、一部の編成には荷物置き場が付かない可能性もあるかと思います。また、車両の新造や改造には時間がかかるため、2020年5月からのサービス開始時から2023年度までの間は、特大荷物を持ち込んだ場合の荷物置場は、車両の最後部座席後ろに限られます。車両の新造・改造が全て完了(2023年度)した後は、荷物置き場もあわせて使用できるようです。
特大荷物を持ち込まない旅客としてのメリットは、持ち主不明の荷物が座席後ろに置かれることがなくなるのが一番のメリットでしょう。最後部座席を予約していて、後ろに荷物があると、リクライニングができず窮屈なまま乗車することを強いられます。今後は最後部座席と荷物置き場がセットとなるため、他人の荷物でリクライニングができない。といった事態はなくなるでしょう。また、特大荷物を持ち込む側としても、これまでは自分の座席から離れたところに置く必要があり、盗難などの懸念や、持ち主が確認できずに車掌が途中駅で降ろすといった対応がされることもあります。仕組みが導入された後は、自分のすぐ後ろで管理できるため、このような事態は起こらなくなるでしょう。
これまで野放しで無法地帯だった特大荷物置き場の新設は評価できると思いますが、冒頭のプレスリリースを読んだ時には、いくつか疑問や本当に運用が回るのか、と思えるような箇所がいくつかありました。
まず、前述の通り、この荷物置き場利用のターゲットとなるのは、大半がインバウンドの外国人観光客になると思われます。ということは、事情を知らない外国人が仮に自動券売機で通常の指定席や自由席のきっぷを買ってしまった場合、突然車内で咎められて1000円を徴収されるということになります。そもそも外国人に対し、JR各社の車掌がこのペナルティ料金について、きちんと説明できるかが疑問ではあります。彼らは語学のプロフェッショナルではありませんから、日本人相手でも気遣う必要のあるこのペナルティ料金の徴収時には、些細な行き違いからトラブルが多発しそうです。最近の自動券売機はご丁寧に多機能対応で作られているため、外国人であっても普通にきっぷを購入することが可能です。また、JRとしても省力化という観点から、有人窓口を閉鎖して自動券売機へ誘導する流れとなっています。
仮に有人窓口での接客であれば、大きな荷物を持っている外国人を見た場合、事前予約ならば無料なので、臨機応変に荷物の置ける最後部座席を案内することができると思います。外国人観光客であれば、ジャパンレールパス(JRP)を保有していることも多いため、窓口に行って指定席を取る人の割合は多いのだとは思いますが、JRP乗車不可の「のぞみ」の車内でも外国人観光客がいないわけではないことから、券売機の案内の仕方などについては、工夫する必要があるかと思います。
この荷物置き場の仕組みとして、最後部座席の指定席と紐づけて最後部座席の荷物置場を使用できるようにしていますが、自由席車両に特大荷物を持ち込む場合のことは書かれていません。原則、特大荷物を持ち込む場合には指定席を予約することになるのでしょうが、指定席を使うと、座席指定料金と場合によってはのぞみ料金が上乗せとなってしまいます。そのため、普段は自由席でよいという人も、特大荷物を持っている場合は荷物を運ぶための料金として割り切って考えるといった対応が必要になってきます。また、改札口でのチェックをすり抜けて特大荷物を自由席に持ち込む旅客も発生するでしょう。その場合、自由席の車両最後部に荷物が置かれるといった事も発生し、指定席料金を負担して荷物対応の座席を指定した旅客と、不公平感が生まれる可能性があります。
これは大型荷物を持ち込まない人への影響です。新幹線の最後部座席というのは、後ろの人がいないために思いっきりリクライングができます。また、トイレや喫煙ルームが近い事から、新幹線のヘビーユーザーを中心に人気のある座席となっています。そこを一律で荷物置き場と紐づけた座席としてしまうと、不満の声が上がりそうな気もします。また、荷物置き場の事前予約は0円なので、特大荷物が無いのにこの席を予約するといった行為も発生するのではないかと思います。
大した問題ではないのかもしれませんが、グリーン車の荷物置き場を造るにあたり、車端のフットレストを撤去するようです。新幹線の中で合法的(?)に靴を脱いで寛げるフットレストが一部とはいえ無くなることは、サービス低下と言えるのではないでしょうか。それと同時に、グリーン車の最前列はますますハズレ席化が進むと言えるでしょう。
ここまで、東海道・山陽・九州新幹線に新設される特大荷物置き場について考察してきました。取り組みそのものは良いとは思っていて、大きな荷物を安全に預けることのできる荷物置場というのは、外国人観光客を中心に強く要望があったのだと思います。しかし、その反面、事前予約なしの持ち込みによるペナルティ料金の扱いや、ルールの抜け穴をついた行為への対応というところが、実運用での課題となってくると思います。実運用開始まで1年もありませんが、東京オリンピックなどで日本に不慣れな観光客が押し寄せてくるということも含めて、煮詰めていくべきものだと感じます。