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戻ってきた日常と山陽道の大渋滞
2023年5月、GWにも「日常」が戻ってきた。それは日本の道路交通を支える高速道路にも言えることであり、
GWにおける高速道路の日常とは「渋滞」である。
今回取り上げるE2山陽自動車道も2023年のGWは、特に連休後半初日の5月3日を中心に激しい渋滞に見舞われた。
2023年GWにおけるE2山陽自動車道とE2A中国自動車道の交通状況
NEXCO西日本によると、E2山陽自動車道下り線(山口方面)では5/3の午前11時40分頃をピークに、岡山県の笠岡インターを先頭に30.3㎞の渋滞が発生した。この渋滞は事故起因のため現場では車線規制等が行われて「動かない渋滞」となった。
こうなると時速はせいぜい10㎞/h程度で、通過には3時間ほどかかったと想定される。
他にも随所で10㎞を超える渋滞が発生しており、山陽道を利用した通り抜けには相当の時間を要したと考えられる。
また、この30㎞の渋滞とは直接関係はなかったが、その先の福山SA付近では事故による通行止めも行われており、30㎞の渋滞を抜けたと思ったら一般道に降ろされるハメになるなど、山陽道は散々な状態であった。
参考 NEXCO西日本管内のゴールデンウィーク期間における高速道路の交通状況(速報)NEXCO西日本
一方の中国道では、利用のピークであった5/3に、10㎞を超えるような目立った渋滞は発生しなかった。確かに山陽道と比較すると大体の場合は目的地までの距離が長くなり、険しい中国山地に沿って走ることから高速道路としては運転しにくいのは間違いない事実だ。
私はこの日、まさに山陽道で大渋滞が発生している時間帯に中国道を西進していたが、山陽道側で通過に3時間以上かかるような渋滞が起きているにもかかわらず、並行する中国道へさほどの迂回効果があったとは思えない交通量であった。中国道はせっかくの片側2車線ある交通容量を持て余している状態である。
なぜ、これだけ混む山陽道に車が殺到し、中国道はスイスイ快適な状態なのだろうか。
コロナ禍が過ぎ去り日常へと戻りつつある今、目前に迫ったG7広島サミットによる交通規制対策や、7月8月の連休・お盆休みなど、山陽道が麻痺した時に備えて今一度、中国道利用を強く検討してみてほしい。
繰り返しになるが、中国道は各地で大渋滞を起こしていた5/3の下りでも10km以上の渋滞はなかった。小規模な渋滞はあったが、それも鳥取道が分岐する佐用JCT以東で数キロ程度の渋滞である。
なぜE2山陽道に車が集中してしまうのか
中国道と山陽道の交通が分散されず、ここまで極端な差が出てしまう理由が3つあると考えている。
- 単純に瀬戸内側(特に中国道から離れている岡山・福山方面)との需要が多い
- 通過交通に対してカーナビの執拗な山陽道誘導
- 運命の別れ道(JCT)での情報不足
1つ目の理由は、「通過交通でない」交通。つまり、山陽道沿線に用がある車の利用が多いという事があるだろう。中国地方の主要都市は、山陽道沿線の瀬戸内側に固まって存在しており、岡山市、倉敷市、福山市といった政令指定都市や中核市レベル以上の都市が点在している。ただ、広島市に関しては比較的中国道も近いところを通っており、中国道がある程度はバックアップとして機能できると考えられる。
これらの都市を目的地とする交通はかなり多く、かつ四国への玄関口である瀬戸大橋やしまなみ海道とも接続してるため、四国との往来にも重要な役割を果たしている。
これらの都市は中国道から遠く離れているため、迂回をするとかなりの距離となる。多少の渋滞なら目をつぶって突入したほうが良いと考えるのも無理はないだろう。
であれば、通過交通に該当する関西~九州を移動する長距離ドライバーにとってはどうだろう。
しかし、今回のような大渋滞にもかかわらず、特に帰省や行楽で利用している長距離ドライバーの大半は山陽道を使ってしまっているはずだ。その理由の一つが、カーナビである。
長距離ドライブの強い味方になってくれるのがカーナビなのだが、カーナビに経路設定をお任せすると、通過交通だろうがなんだろう容赦なく山陽道がセットされる。このため、カーナビ任せで経路を決めている車は、間違いなく山陽道へと吸い込まれる。
それだけでは飽き足らず、中国道を選択して走った場合でも、福崎ICで播但道へ誘導され、宍粟JCTで播磨道へ誘導するような「露骨な山陽道戻し」経路で案内される。もちろん、それが悪いという事ではなく短距離で所要時間も(平常時なら)短い山陽道に戻るよう促しているのだから、それ自体は悪いことではない。
しかしそれが通用するのははあくまで「平時」の話である。
リアルタイムの交通情報で最適な判断をしてくれるカーナビもあるのだが、それによるコントロールも上手くできずに、皆が皆山陽道へと神戸JCTでは吸い込まれていく。
渋滞は生き物のようなもので、発生するとたちどころに距離を増していく。特に交通量が多いとこであればそのスピードは顕著である、30分前には全く渋滞していなかった地点でも、何かをきっかけに急に車の流れが止まり、何十キロにもわたる渋滞を形成することもある。今回の渋滞はまさにその典型でもあったのではないだろうか。笠岡IC付近で事故が発生し、それきっかけに短時間で30㎞もの渋滞を形成したのだから。
山陽道下りは神戸JCTで中国道と分岐する。そして今回最大の渋滞があった笠岡ICは神戸JCTから180キロも離れた地点だ。180キロを普通に走ると休憩を1回入れて2時間半くらいの所要時間だろう。
山陽道の大渋滞が始まったのは朝の9時くらいで、ピークはちょうどお昼ごろ。前述したとおり、笠岡ICは神戸JCTから180キロ、休憩込みで2時間半程度の距離となる。逆算すると朝の6時半頃に神戸JCTを通過して山陽道へ向かった車はこの渋滞に巻き込まれてしまったはずだ。
しかし、午前6時半に運命の分かれ道を通過したとき、神戸JCT手前で山陽道に対する渋滞情報があったのか?
答えは否である。まだ渋滞が発生していないのだから、神戸JCTの手前の案内板も「この先渋滞無し」を表しているし、渋滞によって経路を制御できるカーナビであっても、渋滞情報が提供されていないのだから経路変更のしようがない。
つまり、「この先渋滞なし」の案内を素直に信じて、皆が神戸JCTを山陽道方面に通過してしまっているのだ。
渋滞がないと思っていたところに渋滞が発生し、それが急成長して最終的に大渋滞に巻き込まれてしまうのである。
まさに一寸先は闇!混雑期は最初から中国道経由の経路選択を!
私は5月3日の交通ピーク日に、神戸JCT-山口JCT間を全線中国道で通過した。朝の6時ころに神戸JCTから西進するパターンで、山陽道を通っていればまさに30㎞の事故渋滞に巻き込まれ、3時間超のタイムロスになるところであったが、中国道を経由したことで混雑らしい混雑にも遭遇することなく、旅先へ予定通り到着することができた。
唯一の誤算らしい誤算が、あの「鹿野サービスエリア」のレストランの券売機に人が列をなしており、食事を諦めたくらいである。さすがにGWの最混雑日のお昼時にはあのエリアでも食事待ちが発生するのか…と感慨深くなった。
ガラガラの鹿野サービスエリアについては、以下の記事でご紹介している。
山陽道と中国道の関係は規模や道路構造こそ全くの別物だがE1東名とE1A新東名の関係そのものだろう。だからこそ、高速道路ナンバリングでも「E2」と「E2A」により、並行路線と位置付けられている。
平時であれば通過交通が山陽道に入ったところでわけなく捌くことができるので、重要性は新東名のそれとは比べ物にならないが、混雑期になれば話は別で、中国道があるからこそ山陽道も「あの程度で済んだ」と言えるのだろう。
このあたりは、上にリンクを貼った以前の記事でも紹介していますが、改めて紹介。
半分くらいは中国道の自虐ネタに近いところも含めていますが、本当に良い事もあります…。
初心者さん
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いつまでもガラガラではインフラが勿体ない!有効活用の方法を考えてほしい
ここまで紹介したように、中国道を使えば山陽道が大渋滞となる日でも区間によってはスムーズに移動ができる事を紹介してきた。沿線に用がある人はどうしようもないが、そうでない層。例えば単にカーナビに誘導されて「火に入る夏の虫」状態になる利用者層は、どのようにしたら減るのだろうか。
NEXCO各社ではGWやお盆などの交通が集中する時期には、渋滞予測マップというものを出しており、どこでどの程度渋滞するか予測したものを、一般のドライバー向けに提供している。しかし、この予測も山陽道30㎞渋滞までは予測することができなかった。
理由は簡単で、渋滞というのは小さな事故一つで大きく状況が変わってしまうのだ。単純に交通量だけで予測すれば渋滞予測マップの通りになるのかもしれないが、高速道路ではどうしても交通事故が発生しがちである。このため、ひとたび小さな事故が起こると、そこを起点に大渋滞というのが往々としてある。
そして、この記事でも取り上げた「神戸JCT」での運命の分かれ道である。高速道路の渋滞情報というのは、結局「今」を表すものであって、今後どうなるかという情報があまりにも乏しすぎるのだ。
事故が発生するかどうかはさすがに誰も予測することはできないのだが、高速道路には交通量を測定するためのトラフィックカウンタが設置されている。ここで取得したデータをリアルタイムに活用することはできないのだろうか。渋滞は、交通量が一定の道路の捌ける容量を超えると急に発生するようになる。このため、流入量の予測ができれば事故発生などの情報と併せて、ある程度の区間単位でまだ発生はしていないが「渋滞の危険度」をリアルタイムで提供することはできないのだろうか。
「神戸JCT」での運命の分かれ道で、例えば山陽道方面に「〇〇~〇〇 渋滞最大30㎞のおそれ」などといった情報を掲示して、カーナビとも連動できればある程度の層は中国道へ逃がすこともできるのではないだろうか。
そもそも、中国道が整備された経緯が、中国地方の国土軸は中国道一本で良いとされたからで、それが見直されて山陽道、さらに山陰道が開通しつつある今、中国道の中で利用の少ない区間というのはその存在意義というのが問われているように思う。
中国道は比較的開通が古い高速道路であるため、老朽化によるリニューアル工事が各所で行われている。関西都市圏では超重要インフラであることに間違いはないのだが、問題はそれを除いた区間である。交通量が1日3000台程度の高速道路であっても、容赦なく老朽化の波は襲ってくる。そのため道路を残すのであれば大金を投じて修繕工事を行う必要がある。
果たしてそれだけの大金を投じてまで存続させる意味のある道路なのか。せめて並行する山陽道の負担を軽減させるような取り組みを行い、必要とされるインフラとなったうえで今後も維持をしていってほしいと思う。