2021年度、ついに町内会で輪番で回している「組長」が回ってきた。戸建てやマンションを購入した人は、避けては通りにくい道の一つではあるが、1年間の任期を終えてその振り返りも兼ねて、その内容を記事にしてみることにした。
これから組長が回ってくる方や、その仕事内容を知りたい方の参考になればと。なお、町内会によって運営方法は異なるとは思うが、概ね似たような枠組みと思われる。
前提として、私の所属している町内会は、全体がおよそ500世帯で、戸建て、マンションが混在している住宅地の町内会となる。
目次
町内会の組長はその名の通り「組」の長である。
「組」とは、町内全体をいくつかのグループに分割した時の単位であり、そのグループ単位で代表者を出すことになる。その代表者が「組長」であり、住民と町内会との仲介を行うことが主な役割である。
私の所属していた町内会では、組長の決め方にはルールは無く、「組内の話し合い」により決める事となっていた。しかし、自推で組長をする人はほとんどいないと思われるため、原則としてどこも「輪番制」になっていることが多いのではないかと考えられる。
輪番の順番は、家の並び順、部屋番号順であることがほとんどであるが、先ほども書いた通り、組長の回し方は組内の話し合いによって決められるため、町内会では把握していない。また、既存の住宅地に家を建てる時、組長がいつ回ってくるかを調べることは、住民に聞き込みをしない限りは分からない。(そして怪しまれる)
思いやりのある地域であれば、家を建てた年にいきなり「組長お願い」とはならない…はずである。
ここからは組長の具体的な仕事を紹介していく。組長の仕事は大きく2種類に分けられる。
恐らく、こちらが「組長」として最初から思い描く仕事内容だと思われる。その名の通り「組の長」として、住民のために様々な仕事を行う。代表的な仕事は次のようなものだろう。
- 役員会議への出席
- 住民異動の把握
- 市の広報誌の引き取り・世帯への配布
- 回覧の管理
- 区費の回収(その他、募金などの現金の回収があれば行う)
月に一度、どこかの日曜日の朝イチに行われていた。内容は主に町内会長からの周知事項と、各部会(後述)が発行する文書に関する合議、承認である。
土日休みなら良いのだろうが、土日は原則仕事で平日休みという人もいたので、そういう人は調整が大変そうだった。また、ネットで調べる限りは、そういった人に配慮(?)して「平日の夜」に行われることも多いようである。
ただ、平日の夜だろうが社畜が定時で帰って会議に間に合うかは分からない。何時から始めているのだろうか。
住民の異動があると、基本的に住民が「異動届」なるものを町内会の事務所に提出するので、主にそこから把握することができる。それを受けて、回覧板に挟む回覧表などの更新が必要であれば更新する。
万が一、引っ越ししてきてからも広報誌などの部数が変わらない場合は、異動が把握されていない可能性があるため、事務所に連絡して把握してもらう必要がある。
また、私の任期中(というかここ数年)はなかったが、組内で不幸があった場合は、町内会から弔慰金が出るため、組長から事務所へ報告する必要がある。
月に一度、広報誌が市から発行されるが、その広報誌を配布するのは組長の仕事である。
具体的には、町内会の事務所に広報誌が納品されるのだが、事務所の事務員の方が組単位の部数に仕分けるところまではやってくれるので、それを事務所に取りに行き、各世帯に配布する必要がある。
組内で回覧する資料がある場合は、回覧板に挟んで、回覧表に従って回覧する。だいたいは広報紙と同じようなタイミングで事務所から受け取る。
回覧表は組長が作成するが、基本的には前任から引き継ぐはず。ただし住民の入れ替わりによるメンテナンスは必要。
組内の住民に対して、区費の支払いをお願いする。組長の仕事の中でも気を遣うし面倒な仕事なので、引き落としなりなんなり仕組みを構築すればよいと思うのだが、基本的に対面で回収することになると思われる。
唯一救いだったのは、賃貸アパートの区費はアパートの管理会社がまとめて支払いをしてくれたことである。賃貸アパートの住民も、町内会の構成員になるのだが、自分がそうだったように賃貸の住民というのは別に地域に何の思い入れもないことが多い。しかも若い単身の住人が多い事が想定されるため、何度訪ねても不在ということは往々にしてあるだろう。そこを個別回収する必要がなかったのは助かった。
幸いなことに私の組は穏便に済んでいるが、戸建てやマンションの住民であっても区費の支払いを頑なに拒否する世帯がいることも確かで、役員会議では度々話題に上がっていた。(主に回収する組長の悲鳴)
どうしても回収できない場合は、上位の町内会長へエスカレーションして支払いへの協力を求めるようだが、実際に支払っていない世帯もいる模様である。不公平。
実質的に町内会の「役員」なので、組の仕事以外にもやることがあるのが組長である。
部会とは、町内会全体を通じた活動。つまり組を超えて町内全体で行われる行事などに関する仕事の担当であり、組長か必ずどこかの部に所属する必要があった。
また、部会の中でも役職があり、「部長」「副部長」「会計」が相談(という名の無作為決定)の上決定され、部長を筆頭に活動を進めていくことになる。部長は主に役員会議での報告と部毎の備品の管理責任がある(文書を作るのは担当者でもよい)。また、イベントごとでは最初の挨拶などもする必要があり、かなり大変そうだった。
私の所属する町内会には次のような部があった。この中で私は「環境部」に所属していた。
また、あくまでこれらの部会は「主催」ということで、全てのイベントで組長は運営の補助を行うため、実質的にほとんどのイベントには仕事として出席することになる。
- 広報部
- 体育部
- 環境部
- 文化部
各種イベントで写真の撮影などを行い、町内会独自の広報誌を作成していた。
写真を撮る必要があるので、イベントに必ず駆り出される都合上、結構忙しい。
写真を撮るのが好きであればオススメだと思う。
1年活動してみて、一番仕事量が控えめでおすすめだと思ったのが体育部だった。
年に一度、「体力づくりイベント」と「球技大会」があり、そのお膳立てをするのが体育部のメインである。
基本的に毎年やることはあまり変わらないうえに、調整する箇所も少なく準備もラクなイベントが多い。それでいて、活躍するイベントは年に2回しかないので基本的には暇な部である。体育と言う名前に怯んではいけない。
私はモブキャラなので、一番モブキャラが集まりそうな環境部を選択した。なんとなく一番楽かな…と思ったのだが細々とした仕事が意外と多く、面倒だった。
大きなイベントとしては、年に2回実施される公園などの環境美化活動があり、市と必要なゴミ袋の枚数やごみ収集の日取りを調整する必要がある。基本的には前年踏襲で問題はない。
細かい仕事としては、年4回の交通安全運動にあわせた立哨活動や、月1回、夜間の防犯見回り活動があり、環境部のメンバーは毎月これに参加する必要があった。また、町内会の防災倉庫の管理も環境部の担当なので、これの在庫の管理なども地味に面倒な作業である。
個人的に一番大変そうだと思ったのが文化部である。
夏祭りやハロウィン、作品展示などのイベントを主催するのだが、夏祭りは特に大きな準備が必要となる。
また、子ども会やジュニアクラブなどとの連携もあるため、管理能力・調整力が問われる部でもある。
ただ、2021年度はコロナにより夏祭りが中止となったため、そこまででもなかったのかもしれない。(が、文化部の部長は結構切羽詰まっていたように思える)
特に主催イベントが無い場合の1か月のサイクルは次のような感じである。何もなければ月に数時間程度の拘束時間で済むが、平均すると10時間~は拘束されると考えた方がいい。
- 月初:広報誌の受け取り・配布(1~2時間)
- 月1回:防犯見回り(1時間)
- 月1回:役員会議(1~2時間)
これに必要に応じて、イベントごとに参加を求められる。
平均すれば、月に10時間程度、多ければ20時間程度は拘束されることになる。
- 環境美化(3時間程度×年2回)
- 交通安全立哨(朝に30分程度×数回)
- 体力づくりイベント(3時間程度×年1回)
- 球技大会(終日×年1回)
- 夏祭り(夕方から4時間程度×年1回)
- ハロウィン(半日×年1回)
- 防犯見回り(1時間程度×数回)
- 通常総会の開催(半日×年1回)
- 区費の回収・募金回収(年2回)
- 定例回覧(月1回・緊急もあり)
- その他主催イベントの企画・文書作成・準備等…
- 部長であれば役員会議での報告事項まとめ
年間2万円貰うことができた。
これも地区によってバラバラで、全くないところもあるらしい。
労働時間として考えたら全く割に合わないのは変わらないのと思われる。
私の場合は既存の住宅地の中に引っ越して、全く誰も周りに知り合いはいなかったのだが、組長としての活動の中で、同い年程度の子どもがいることを知ったり、部会の活動で仲の良い人ができたのはプラスだったと思う。
新興住宅地は、良くも悪くも人付き合いは希薄なのだ。
町内会という組織が、どのような枠組みで、どのような活動をしているか漠然としたまま生活していたが、実際に組長として活動し、町内会の活動に参加することで、「実はあんなのも町内会がやっていた!」という発見もあった。
ゴミ集積所を町内会が管理するというのはよくある話なのだが、例えば、地域に防犯カメラを設置したり保守をする費用は、区費の中から予算を組んでいるし、ガードレール、カーブミラー、横断歩道といった安全に欠かせないものも、実は地区から町内会が吸い上げて市に申請しているものがかなりあるということも分かった。(そして、市からは優先順位など理由付けをされて却下ばかりされる現実も知ることができた)
平日は仕事をしたうえで、休日にも仕事をするというのは結構酷なものである。
私の場合、基本的にカレンダー通りに会社の仕事があるため、自治会の活動に合わせやすかったのだが、逆に休日に出勤しなければならない仕事の場合、職場などとの折り合いを付ける必要がある。
会社からすれば、町内会の活動とどっちが大事なんだ!と思うかもしれないし、町内会からすれば、それを理由に欠席ばかりされていたら、準備や運営にかかる人が足りなくなったり、他の組長との不公平による不満が広がる可能性もある。いろいろな人が住む以上、全員に合わせる事は難しいのだが、やはり多い側の意見が尊重されてしまうのはやむを得ないところだろうか。
どこもそうだと思うが、「何のためにこんなこと?」という活動は多い。これは間違いない。
具体的にどのような活動があるのか、一例を挙げてみる。
交通安全の立哨は、子どもの安全のために役に立っている感はあるが、それと一緒に「交通安全運動実施中」というのぼり旗がわざわざ準備してあり、交通安全運動の最中だけ、普段の防犯啓発用の旗を交通安全運動の旗に差し替えるという何とも面倒なことがある。何故そんな事をするのか聞いてみても、その旗が無いことでクレームがある…という「何故??」と思えるような回答しか無かった。
そんなことでクレームを入れる人間がいることにも驚きだが、旗の差し替えだって、事務所から持ってきて現地まで運び、旗を差し替えて、差し替え元の旗はまた事務所に片付ける。
そしてこの期間が終われば、再び差し替えるのだ。
そもそも、この旗をどれだけの人が見ていて、どのような啓発効果があるのだろうか。
環境美化の一環なのか、市から花の苗が配られ、それを各戸世帯へ配布するという作業がある。
市は、地区の事務所に数量分を納入して終わりだが、受け取った町内会側では環境部の組長がこれをせっせと組単位に分け、1世帯分ずつビニール袋に入れて「個包装」していく作業を行う。およそ500世帯分である。
そうして苦労して個包装して配られた花の苗の大半は、日に日に各家庭の玄関先で放置され、萎れ、枯れていく。
毎日駅まで歩いていくたびに、軒先の花の元気が無くなっていく様子を眺めるのだが、労力の割に報われないことをしたという実感が湧いてきて、たまらなく哀愁を誘うのだ。
ガーデニングに興味が無い人であれば前述の通りだが、例えガーデニングが好きな人であっても、頼んでもいない花を一株貰っても、「どうしよう?」と思うのではないだろうか。そういった理由もあって、なぜこんなことを続けるのかがとにかく疑問だ。
市が続けているので、町内会では何ともしようがないのだが、形骸化した活動であることは間違いないだろう。そして、区費ではなく市に納めている税金から花が買われて消えていっていることも間違いない。
しれっと、毎年5月くらいになると、区費の集金と一緒に「これも集めてこい」と渡されるのが、社会福祉協議会(社協)と、赤十字の募金である。
おそらく、こういった機会に対面で徴収しないと、よほど意識が高い人でない限り募金なんてすることはないと思うのでこのような方式なのだろう。(こういった理由があって、区費を引き落としとかにできないのでは?と思う事も。)
そして、これらの活動は組のためでも町内会のためでもなく、完全に社協や赤十字のためのボランティア活動である。だいたい、相場はどちらも500円程度とのことで、区費を集めに行くだけでも大変なのに、そちらでも金銭を収受しなければならないうえ、それぞれに異なった領収書や控えを渡さなければならないので、かなり煩わしい。
あくまで任意ではあるのだが、それなら任意で払えるようにすればいいのではないだろうか。前述の集金率の問題もあるのだろうが、引き落としや振り込みなどにしたら回収できる金額は一気に減ってしまうのだろう。そのために組長はコキ使われるのである。
このような「ムダ」がまだまだ大量にある町内会の活動だが、何故形骸したまま続けられてしまうのか。それは、組長の任期が「1年しかない」ことに尽きるだろう。
決して私が何年も組長をやりたいわけではないのだが、だいたいの人にとっては、理不尽で意味がない活動であっても「1年我慢すれば終わる」という事が問題なのだ。ほとんどの人が未経験でいきなり町内会の活動に放り込まれ、そんな中役員会議で意見を申したうえでルールを変えるというのは、非常に苦労する。
また、町内会長は基本的に、その地域の長老が就任することが多く、そうした長老は、地域内に付き合いの長い長老クラスの人間がたくさんいるのだろう。いくら町内会長と言えども、自分の一存だけで長年慣れ親しんできたものを変える事には、大きな抵抗があるし、周囲からの反発もあるかもしれない。そういった理由から、例え改革を求めるような意見が上がっても、現状を維持する前提の考えになってしまい、中々変革が起こらないのではないだろうか。
ここまで、組長の仕事について説明してきたが、大方の予想通り面倒なことは多い。こんな面倒ごとになるくらいであれば、そもそも町内会に加入しなければ良いのではないか?と思う方も多いだろう。
まず原則、町内会の加入は任意である。ゴミを集積場に出せないという話も聞くことがあるが、だいたいの集積場の設置とゴミの回収は市がしているため、基本的に市民であればゴミ集積所は利用できるし、利用させなくすることもできないと考える。(使うな。という人はいるかもしれないが、法的な根拠は無い。)
市の広報誌や回覧は回ってこないかもしれないが、今やDXの時代、広報など市のHPからPDF形式で誰でも見ることができる。回覧は非常にローカルな情報を得る唯一の手段かもしれないが、おそらく町内会に加入したくないと強く思っている人にとっては、そのような情報を得たいと思う事は皆無だろう。
また、夏祭りのイベント等でも、特段個人名による申請を必要とするものでなければ、参加することは可能である。
結局、法的な抑止力というものは何もないので、実害はあまり無いはずだが、頑なに加入を拒む場合、「世間体」が悪化する可能性は大いにあるだろう。つまり、近所で噂になったり、あの家はヤバい。という認識が(本当にヤバいかどうかはさておき)広まってしまうというおそれは十分にある。
ここまで書いてきたように、町内会の活動というのは、はっきり言って無駄や問題の多いものだ。
そして、それを変えようにもなかなか変わらない。
しかし、イベントを企画すればそれに参加してくれる住民の方もいるし、頑張っている組長に「ご苦労様」と声をかけてくれる住民もいる。本当に無駄な作業だと思う事もあったが、自治会運営の裏側など、中に入り込んで得ることができた知識もたくさんあった。
何でもそうかもしれないし、やりがい搾取をするつもりはないが、やらずに文句を言っている人と、やって文句を言う人を比べるとその言葉の重みが違うのだ。
そういった意味で、無駄や問題が多い。ということを分かりつつも、せっかく回ってきた機会、1年やれば終わるのだから、やってみたらいい。長くこの街に住み続けたい。と思うなら、街への恩返しという気持ちで頑張ってみてはどうだろうか。